1. 報道の概要 — 高野山の宿坊で申告漏れ

2026年9月10日、読売テレビ配信(Yahoo!ニュース等)で、世界遺産・高野山(和歌山県)で宿坊を営む複数の宗教法人が、大阪国税局の税務調査を受け、2025年度に宿坊などの収益事業で得た所得を少なく申告するなどして、合わせて約1億円の申告漏れを指摘され、約6000万円を追徴課税されたと報じられました。報道によれば、指摘を受けた法人はいずれも修正申告に応じたとみられています。

宗教法人は宗教活動にかかわる収入には課税されませんが、宿坊などの収益事業は課税対象になります。

背景として、高野山は開創1200年を超え、2004年に世界遺産に登録された地で、総本山・金剛峯寺をはじめ117の寺院が建ち並び、50を超える宿坊があると報道は伝えています。また、2025年には高野山全体の外国人宿泊客が11万7000人と過去最多になったとも報じられており、修行体験や精進料理を味わえる宿坊が人気を集める一方で宿泊代が高騰している、という指摘もあります。

報道では、指摘を受けた法人の一部について所得税の源泉徴収漏れも指摘されたと伝えられていますが、個別の事実関係については、その後、当該法人側の説明も報じられています。本記事は特定の法人の是非を論じるものではなく、以下では一般論として、宗教法人の収益事業課税と申告の考え方を整理します。

報道の詳細は、Yahoo!ニュース(読売テレビ配信)「お寺は非課税じゃない!?世界遺産・高野山の宿坊で約1億円の申告漏れ 外国人客急増の裏で何が」をご参照ください。

2. 宗教法人課税の基本 — 宗教活動は非課税、収益事業は課税

国税庁パンフレット「宗教法人の税務」によれば、宗教法人等の公益法人等は、収益事業を行う場合、その収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課税されます。お布施・奉納金・お守りの頒布金など、宗教活動に伴う収入で実質的な喜捨金と認められるものは、原則として非課税です。

ここでいう「収益事業」とは、法令で定められた34種類の事業を、継続して事業場を設けて行うものをいい、これに関連して行われる付随行為も含まれます。宿泊施設で宿泊料を受ける行為は、その名目にかかわらず「旅館業」に該当し、収益事業となります。ただし、宗教活動に関連して利用される簡易な共同宿泊施設で、宿泊料が全ての利用者について1泊1,000円(食事を提供する場合は2食付きで1,500円)以下となっているものについては、この例外に該当し収益事業には該当しないとされています。

区分 例
非課税になりうる例 お布施・奉納金・お守りやお札の頒布金(実質的な喜捨金と認められるもの)/墳墓地の貸付け(永代使用料を含む)/宗教活動に関連する一定の簡易な共同宿泊施設(宿泊料が上記の限度額以下のもの)
課税対象となりうる例 宿坊などの宿泊施設の宿泊料(旅館業)/絵はがき・線香・ろうそく・数珠など、通常の物品販売業者も扱う物品を通常の価格で販売する行為(物品販売業)/境内地の一部を時間極め・月極め等で貸す駐車場の提供(駐車場業)

なお、喜捨金や対価の収受が現金で行われる場合とキャッシュレス決済で行われる場合とで、収益事業の該当性の判断が変わるものではないとされています。

3. 見落としやすい5つの実務論点

3-1. 区分経理を徹底する

収益事業に係る収支・資産・負債と、収益事業以外の事業に係る収支・資産・負債は区分して経理し、収益事業に係る所得金額を計算する必要があります。収益事業と収益事業以外の事業に共通する費用は、使用面積や従業員数等の合理的な基準により配分します。

3-2. 個人的な支払いは給与とみなされる場合がある

宗教法人の収入として計上すべきお布施等を住職等個人が費消した場合や、住職等が個人で負担すべき飲食代・生活費・慶弔費、子弟の学費などを法人が負担した場合は、住職等に対して給与の支払いがあったものとされ、源泉徴収の対象になり得ます。個人の家計と法人会計を明確に区分することが基本です(庫裏への居住や、業務に必要な法衣の支給・貸与など、職務上やむを得ないものは源泉徴収の対象外とされる例もあります)。

3-3. 収益事業開始等届出書の提出

宗教法人が新たに収益事業を開始した場合は、開始した日以後2か月以内に「収益事業開始等届出書」を所轄の税務署長に提出する必要があります。届出には、開始時点の収益事業の貸借対照表、定款・規則等の写しの添付が求められます。法人税確定申告書の提出期限も、各事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。

3-4. 収益事業がなくても提出が必要になる場合がある

収益事業を行わないため法人税確定申告書の提出義務がない宗教法人でも、お布施収入等を含めた年間の収入金額(臨時的な資産処分による収入を除く)の合計額が8,000万円を超える場合は、その事業年度の損益計算書又は収支計算書を、事業年度終了の日の翌日から4か月以内に所轄の税務署長へ提出する必要があります。

3-5. 消費税・地方税・固定資産税等は個別に確認する

宿坊などの収益事業を行う場合、消費税やインボイス制度、固定資産税の取り扱い等も個別に確認が必要になります。制度は改正が入りやすい分野でもあるため、具体的な取り扱いは税理士等の専門家にご確認ください。

4. 承継後に宿坊・サウナ等の活用事業を始めるときのチェックリスト

後継者を得て承継が実現した後、宿坊やサウナ等の活用事業を検討する寺院も増えています。関連事例として、承継後の宿坊×温浴事業 — 天城温泉 禅の湯(静岡)の事例、寺クライシスと承継後の新しい寺院運営 — 大泰寺(和歌山)の事例、一棟貸し宿坊と貸切サウナ — 一畑山コテージ(島根)の事例もご参照ください。事業を始める前に、次の点を確認しておくと安心です。

  1. 宿泊料・入浴料等を受ける事業が、収益事業(旅館業等)に該当するかどうかを確認したか
  2. 収益事業を開始する場合、開始日以後2か月以内に「収益事業開始等届出書」を提出する準備ができているか
  3. 宗教活動に係る会計と、収益事業に係る会計を区分経理する体制を整えたか
  4. 住職・役員・家族への支払いが、給与として源泉徴収の対象になるかどうかを整理したか
  5. 年間収入が8,000万円を超える場合の損益計算書等の提出義務を確認したか
  6. 消費税・固定資産税等の取り扱いについて税理士等に相談したか

承継の場面では、こうした新規事業の準備に加えて、承継前から続く申告状況・帳簿・源泉徴収の実施状況を引継ぎ前に確認しておくことも重要です。過去の会計処理に不明な点があれば、承継を機に整理し直す好機と捉えることができます。

迷ったら税理士へ

収益事業への該当性や、給与・源泉徴収の判断は、個別の事実関係によって結論が変わることがあります。「大丈夫だろう」で進めるのではなく、開始前・承継前の早い段階で税理士等の専門家に確認することをおすすめします。

5. TSUGUができるご支援

TSUGU(ツグ)では、後継者不在の寺院・神社の承継に加え、承継後に宿坊・サウナ等の活用事業を始める際のご相談にも対応しています。連携する税理士等の専門家と連携し、区分経理の考え方の整理、届出の準備、申告体制づくりまで、正規の手続きに沿った形でサポートいたします。

「承継はできそうだが、その後の運営や税務の扱いに不安がある」というご相談も、初期段階からご一緒に検討いたします。ご相談は無料・秘密厳守です。

よくあるご質問

お寺の収入はすべて非課税ですか?

いいえ。お布施・お守りの頒布金など、宗教活動に伴う収入(喜捨金と認められるもの)は非課税ですが、宿坊などの宿泊料、物品販売、駐車場の提供といった「収益事業」から生じた所得には、法人税が課税されます。詳しくは国税庁パンフレット「宗教法人の税務」をご確認ください。

宿坊を新しく始めたら、何を届け出る必要がありますか?

収益事業を新たに開始した場合は、開始した日以後2か月以内に「収益事業開始等届出書」を所轄の税務署長に提出する必要があります。届出には、開始時点の収益事業の貸借対照表や、定款・規則等の写しの添付が求められます。

住職やそのご家族への支払いで注意すべき点はありますか?

宗教法人の収入を住職等が個人的な費用に充てた場合や、個人が負担すべき飲食代・生活費等を法人が負担した場合には、給与の支払いがあったものとして源泉徴収の対象になり得ます。個人の家計と法人会計は明確に区分することが基本です。

承継の前から申告漏れがあった可能性に気づいた場合、どうすればよいですか?

一般論として、気づいた時点で早期に税理士等の専門家に相談し、修正申告など正規の手続きを検討することが望ましいとされています。承継の場面では、過去の申告状況や帳簿、源泉徴収の実施状況を引き継ぎ前に確認しておくことも重要です。