1. はじめに:後継者を得た後、寺院の運営をどう再構築するか

テレビ東京『ガイアの夜明け』2026年7月24日放送「寺クライシス! 〜後継者がいない、その時〜」でも取り上げられたように、全国7万7000の寺院のうち約1万7000で専任住職が不在という現状は、これから承継を検討する寺院にとって深刻な背景条件となっています。ここで注目すべきは、承継が成立した後、その寺院がどのように運営を継続していけるかという「その先」の設計です。

檀家収入の減少が構造的な事象である以上、承継後の寺院は、宗教活動を中心軸に据えつつ、境内地・建物・立地といった資源を活かした持続可能な収益源を、慎重に組み立てていく必要があります。

2. 事例研究:慈眼院と「天城温泉 禅の湯」

2-1. 慈眼院の概要

慈眼院(じげんいん)は、静岡県伊豆市に位置する古刹です。天城の山懐に抱かれた立地で、周辺は伊豆半島の自然と温泉文化に恵まれています。

2-2. 「天城温泉 禅の湯」の特徴

慈眼院に併設する形で運営されている「天城温泉 禅の湯(ぜんのゆ)」は、モダンな意匠で整えられた宿坊型の宿泊施設です。特徴は以下のとおりです。

  • 源泉かけ流しの天然温泉
  • トルマリンやゲルマニウムなどを敷き詰めた広々とした敷石サウナ(岩盤浴)
  • 宿坊としての精進料理・写経・坐禅などの体験プログラム
  • 伊豆の自然に囲まれた静謐な滞在環境

単なる「お寺併設の温泉宿」ではなく、宿坊としての宗教文化的要素と、現代的なウェルネス施設としての機能を両立させている点が、事業モデルとしての示唆に富みます。

参考情報

「天城温泉 禅の湯」に関する公的一次情報は、施設公式サイトおよび伊豆市観光情報等をご確認ください。本稿の記述は、一般に公開されている情報を編集部において整理したものです。

3. 宿坊×温浴が示す3つの示唆

3-1. 地域資源との統合

温泉地に位置する寺院にとって、温泉は「地域の資源」であると同時に「参籠者(さんろうしゃ)を受け入れてきた歴史との連続性」を体現するものでもあります。禅の湯のように、寺院が地域の温泉文化と正面から結びつくことは、参拝客だけでなく地域の滞在需要そのものを取り込む道を拓きます。

3-2. 「ととのう」需要と精神文化の親和性

近年のサウナ・温浴ブームは、単なるレジャーではなく、心身を整えたいというウェルネス欲求に支えられています。この欲求は、坐禅・写経・法話といった伝統的な精神文化とも接続しやすく、寺院という場を通じて統合された体験として提供することが可能です。

3-3. 檀家収入への依存を減らす

宿泊業・浴場業を収益事業として位置づけることで、檀家からのお布施・護持会費だけに依存しない、比較的安定した収入源を作ることができます。もちろん、宗教活動が主たる目的として継続していることが大前提です。

4. 法令上の論点(旅館業法・温泉法・宗教法人法)

宿坊×温浴事業を検討する際に、承継段階で押さえておきたい法令上の主な論点は以下のとおりです。

4-1. 旅館業法

宿泊料を受けて人を宿泊させる営業は、旅館業法上の「旅館・ホテル営業」に該当し、都道府県知事等の許可が必要です。宗教法人が宿坊として運営する場合も、宿泊料を受ける形態であれば、原則として旅館業法の適用対象となります。参籠のみで宿泊料を受けない態様のみ、宿泊業に当たらない場合があります。

4-2. 温泉法

温泉を採取・利用する場合、温泉法に基づく都道府県知事の許可・届出が必要です。既存源泉を承継利用する場合でも、事業主体の変更に伴い届出が求められることがあります。

4-3. 宗教法人法

宗教法人法上、宗教活動が主たる目的として継続していることが前提であり、宿坊事業・温浴事業は宗教活動と関連づけて位置づけたうえで、規則の記載事項(公益事業・収益事業)と整合させる必要があります。事業規模が大きい場合、規則変更と所轄庁の認証が必要になる場合があります。

4-4. その他

  • 建築基準法(用途変更・耐震・避難)
  • 消防法(防火管理者・設備)
  • 食品衛生法(飲食提供・精進料理)
  • 景観・文化財保護(歴史的景観の維持)

5. 税務上の論点(収益事業と区分経理)

宗教法人が営む宿泊業・浴場業・飲食業は、法人税法上の収益事業(政令で定める34業種)に該当し、収益事業として法人税の課税対象となります。

5-1. 区分経理の徹底

宗教活動由来の収入(お布施・志納金等)と、収益事業由来の収入(宿泊料・入浴料等)を明確に区分経理し、収益事業部分についてのみ法人税を申告納付する必要があります。

5-2. 消費税

宿泊料・入浴料・飲食料は消費税の課税対象となります。基準期間の課税売上高等により納税義務が生じます。

5-3. 固定資産税

宗教活動に用いられる境内建物・境内地は原則非課税ですが、収益事業に供する部分は課税対象となり得ます。実務上は、市町村と個別に協議しながら、供用面積の按分等を整理することになります。

6. 承継段階での並走ポイント

承継後に宿坊×温浴事業を軌道に乗せるためには、承継段階から以下のような点を並行して検討しておくと有効です。

  • 建物・温泉源等の資産評価(老朽度・修繕コスト)
  • 既存の許認可の棚卸し(旅館業・温泉法)
  • 宗教活動と収益事業の位置づけを整理した規則案
  • 包括宗教団体(該当がある場合)との調整
  • 檀家・地域住民への説明計画
  • 資金計画(自己資金・借入・寄付)
  • 運営体制(住職・従業員・外部委託)

意思決定の枠組みは 後継者不在のお寺・神社が取れる4つの選択肢 を、承継全体の概要は 宗教法人の禅譲・承継 完全ガイド をご参照ください。関連事例として 大泰寺の宿坊サウナ事例 もあわせてお読みいただけます。

7. TSUGUができるご支援

TSUGU(ツグ)では、後継者不在の寺院・神社に関するご相談を、以下のような観点から総合的にお受けしています。

  • 適法な承継スキームの設計(代表役員承継・規則変更・所轄庁認証)
  • 宿坊事業・温浴事業を含む活用構想の伴走
  • 旅館業法・温泉法・税務上の論点の整理
  • 連携する行政書士・司法書士・税理士との協働
  • 秘密厳守・無料でのご相談対応

「承継はできそうだが、その後の運営を宿坊・温浴などの形で再構築したい」というご相談も、初期構想段階からご一緒に検討いたします。

よくあるご質問

温泉付きの宿坊は、寺院運営として一般的なモデルですか?

全国的にみれば少数ですが、参籠者を受け入れてきた歴史のある寺院や、湯治文化と結びついた地域の寺院では、宿坊×温浴の組み合わせは古くからあります。近代以降は、温泉利用の宿泊業に旅館業法・温泉法・建築基準法等の許認可が絡むため、施設要件と運営体制の整備が要件となります。

宿坊は寺院自身が運営する必要がありますか?

宗教法人が直接運営するケースと、収益事業として運営会社を別に設けるケースがあります。いずれの場合も、宗教活動と収益事業の区分経理、所轄庁への説明、包括宗教団体(該当がある場合)との調整が必要となります。承継段階で運営スキームを設計しておくことが重要です。

岩盤浴・敷石サウナは、法令上どのような扱いですか?

岩盤浴・敷石サウナは、建築基準法・消防法・都道府県条例に基づく設備要件を満たす必要があります。宿泊施設と併設する場合は旅館業法上の許可、単独提供の場合は業態に応じた届出等が必要です。また、宗教法人の収益事業として営む場合は、法人税法上の34業種のいずれかに該当し得るため、税理士との事前確認が有効です。

TSUGUでは、こうした宿坊事業を含む承継相談にも対応していますか?

はい。TSUGUでは、承継後の宿坊事業・温浴事業を含む活用構想の相談にも対応しています。連携する行政書士・司法書士・税理士が、宗教活動を主軸に据えたスキーム設計をサポートいたします。