1. いま宗教法人の世界で起きていること
文化庁「宗教統計調査」によれば、2026年9月時点で最新となる2024年12月31日現在の宗教法人数は17万8537法人(単位宗教法人17万8150、包括宗教法人387)で、前回調査時の17万8921法人から384法人減少しました。内訳は神道系8万4014法人、仏教系7万6493法人、キリスト教系4791法人、諸教1万2852法人で、このうち他の宗教団体に属さない単立宗教法人は7414法人です。
信者数についても減少が続いています。文化庁の資料集によれば、信者数は2007年12月31日現在の2億659万5610人から、2024年12月31日現在は1億7505万4047人となり、17年間で約3154万人減少しました。ただし信者数は各宗教団体の自己申告によるもので、定義や数え方は団体ごとに異なり、重複計上を含むと文化庁自身が注記している点には留意が必要です。
承継相談の現場でより直接的な指標として重要なのが、実質的に宗教活動を停止している「不活動宗教法人」の数です。文化庁が2025年7月9日に公表した調査結果によれば、2024年12月31日現在の不活動宗教法人は5019法人で、前年から588法人増加しました。後継者不在などを背景に活動が止まったまま放置される法人が、統計上も増え続けていることがうかがえます。
出典
本セクションの数値は、文化庁「宗教年鑑 令和7年版(宗教統計調査)」、文化庁「宗教関連統計に関する資料集」、および文化庁「令和6年『不活動宗教法人の状況等に関する調査』結果」(2025年7月9日公表)に基づきます。
2. 近畿で初めて報じられた神社の民事再生
そうした中、2026年9月、兵庫県川西市多田院多田所町の宗教法人多田神社が、2026年8月24日までに神戸地方裁判所へ民事再生法の適用を申請し、監督命令を受けたと報じられました。帝国データバンクの「倒産速報」ではこれを「倒産」として取り上げていますが、実際に申請されたのは民事再生法の適用であり、これは事業を継続しながら裁判所の関与のもとで財産の処分や債務の整理など問題の解決を目指す法的整理の手続きです。報道によれば、多田神社も今後、神社としての事業を続けながら再建を目指すとされています。
帝国データバンクの報道によれば、神社の法的整理としては全国で3件目、近畿では初めてのケースとみられます。前例として、2003年4月に破産した伊勢山皇大神宮(神奈川県)、2012年4月に破産した東照宮(青森県)があるとされています。
個別の経緯として、多田神社では2023年ごろから境内の不動産に根抵当権が相次いで設定されるなど金銭面のトラブルが表面化し、2024年2月には当時の宮司が死去、2024年9月には担保不動産の競売開始決定に基づく差押えが行われたと報じられています。MBSニュースによれば、前宮司が事業計画を前提に名刀や神社所有の駐車場等を担保として神社名義で借入を行い、その資金が神社会計に反映されていなかったとされ、神社側は返済義務がないと主張したものの、敗訴が続いていると報じられています。この経緯は個別の事情によるものであり、前章で紹介した文化庁統計が示す全国的な傾向とは切り離して読む必要があります。
なお、負債額については帝国データバンクの報道時点(2026年9月)で調査中とされており、2026年9月17日時点で、法人側の公式説明や訂正報道は確認できていません。
3. 「2040年に3分の1以上」という試算をどう読むか
関西テレビの報道では、2040年には全国の宗教法人のおよそ3分の1以上が「消滅の危機」に陥るという試算が紹介されています。ただし、この記事中には当該試算の出典が明記されていません。数字だけを見て危機感を強めるのではなく、まず出所を確かめる姿勢が、判断を誤らないためには大切です。
検証可能な関連の推計としては、國學院大學の石井研士教授による分析があります。宗教情報リサーチセンターのデータベース(原典は産経新聞大阪版2016年2月6日)によれば、石井教授は全国17万6455の宗教法人のうち6万2971法人(35.6%)が、いわゆる「消滅可能性都市」とされた896の市区町村に所在すると分析し、これらを「限界宗教法人」と位置づけています。出典や算出方法が明示された推計と、そうでない試算とを見分けることが、この分野の情報に接するときの基本になります。
4. 報道が示す「存続のための工夫」
統計や個別事案の背後で、報道は寺院が存続のために取り組む様々な工夫も伝えています。関西テレビの報道から、3つの事例を紹介します。
4-1. 宿坊 — 大泰寺(和歌山県那智勝浦町)
約1200年の歴史を持つ大泰寺では、西山十海住職が4つの寺を兼務し、10年ほど前に後継者不足だった同寺を引き継ぎました。7年前からは旧住居の6部屋を1泊1万5000円で提供する宿坊事業を始め、宿泊者の約9割を外国人が占めているといいます。西山住職は「人口減少、過疎化が大きく影響している。布施や寄付が減って経営が苦しくなっている寺が多い」と話しています。大泰寺の宿坊の取り組みについては、当サイトのコラム「寺クライシスと承継後の新しい寺院運営 — 大泰寺(和歌山)の事例」でも詳しく紹介しています。
4-2. 介護事業と「お坊さんヘルパー」— 西栄寺(大阪市西淀川区)
西栄寺では9年前に介護デイサービスを開設し、約20人いる僧侶の半数以上が介護福祉士などの資格を取得して「お坊さんヘルパー」として施設に勤務しています。介護福祉士の吉田敬一さんを中心に、僧侶が進行役となる「デスカフェ」も開催しており、利用者の約3分の1がその後の葬儀等を同寺に依頼しているといいます。吉田さんは「時代の流れに応じて、寺も変わっていかないと“宗教離れ”や“お寺離れ”は進んでいく」と話しています。
4-3. 複業という形 — 照徳寺(兵庫県加古川市)
照徳寺の木村正幸住職は、住職業のかたわら「坊主カフェ」を経営し(看板メニューは梅のかき氷)、国家資格を持つ鍼灸師としても診療する“三刀流”で寺を支えています。門徒の死亡・転出で檀家が減少する中、木村さんは「どんどんどんどん寺の収入が減っていく。物価は上がるが、お布施収入は一緒」と話す一方、「仏教を聞けるところ、縁を増やすことも(3つの仕事に)大きく関わっています」とも語っています。
これらの事例に共通するのは、待つのではなく地域や社会に向けて動くという姿勢です。北海道大学大学院文学研究院の櫻井義秀特任教授は、次のように指摘しています。
(寺や神社も)お客さんが来るのをじっと待つのは、京都とかであればいいとは思うんですけど、信者を求めていく宗教施設でないと、これから難しいのではないか。
そもそも村に1つしか寺がないなら、本当に葬儀とか法事で困るのではないか。
出典
本セクションは、関西テレビ「ニュース記事」の報道内容に基づき編集部が整理したものです。
5. 収益事業を始めるなら、税務の備えが要る
宗教法人は、お布施など宗教活動に関わる収入には原則として課税されませんが、宿坊などの宿泊事業や物品販売といった「収益事業」から生じた所得は法人税の課税対象になります。この基本的な枠組みについては、当サイトのコラム「宿坊は非課税ではありません — 高野山の申告漏れ報道に学ぶ収益事業と確実な申告」で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
毎日新聞の報道によれば、大阪国税局は、高野山(和歌山県高野町)で宿坊を手掛ける約50の宗教法人のうち十数法人を調査し、半数以上で総額計1億円超の申告漏れを把握しました。追徴税額は計約6000万円とみられ、2025年度の調査に続き、2026年度も複数法人で申告漏れが確認されているといいます。
このうち総持院については、住職の家族が2022年から2024年までの3年間に宿坊で得た収入等を私的に支出していたとして「隠し給与」とみなされ、所得税の源泉徴収漏れ約9000万円を指摘されたと報じられています。重加算税を含めた追徴税額は約4000万円とみられます。1億円超という総額(十数法人分の合計)と、総持院1法人に指摘された源泉徴収漏れ約9000万円は、それぞれ別の集計であり、混同しないよう注意が必要です。
関西テレビの報道によれば、総持院はホームページで謝罪のコメントを発表し、「すでに追徴となった税額についても納付した」と説明するとともに、宗教活動と宿坊は区別して会計処理していると説明しています。
| 区分 | 一般的な考え方 |
|---|---|
| 非課税になりうる例 | お布施・奉納金など、宗教活動に伴う収入(実質的な喜捨金と認められるもの) |
| 課税対象となりうる例 | 宿坊などの宿泊施設の宿泊料(旅館業)、物品販売、駐車場の提供など、法令で定められた収益事業に該当する行為 |
背景として、高野町の人口は2026年1月1日現在の住民基本台帳で2578人ですが、町内には金剛峯寺をはじめ117の寺院が建ち並び、51の宿坊があります。高野山全体の外国人宿泊客は2025年に過去最多の11万7000人に達したとも報じられており、宿坊経営の規模が地域の人口に比して大きくなっていることがうかがえます。事業を始める前の区分経理・届出の準備が、承継後の運営を安定させる土台になります。
6. 後継者が見つからないとき — 廃絶の前に検討できること
後継者が見つからないまま時間が経過すると、宗教法人には現状維持・合併・承継・廃止という大きく4つの選択肢があるとされています。それぞれの判断基準や進め方については、当サイトのコラム「後継者不在のお寺・神社が取れる4つの選択肢」で詳しく整理していますので、そちらをご参照ください。
休眠状態が長く続く法人については、文化庁の統計が示すように「不活動宗教法人」として扱われる可能性があり、状態が固定化すると宗教法人法第81条に基づく解散命令の対象になることもあります。休眠宗教法人の考え方や、譲渡・再活性化・廃止という道筋については、コラム「休眠宗教法人とは — 譲渡・再活性化・廃止の3つの道」でご確認いただけます。
承継という選択肢を取る場合には、代表役員の交代に伴う責任役員会での選任、規則変更、所轄庁の認証、登記変更といった一連の手続きが必要になります。手続きの流れは、コラム「宗教法人の代表役員承継の手続き」で解説しています。いずれの選択肢についても、所轄庁や包括宗教団体との協議が前提となります。個別の事情によって進め方は大きく変わるため、早い段階での相談が実務上の助けになります。
7. 早く動くほど、残る選択肢は多い
後継者不在の問題は、時間が経つほど選択できる道が狭まっていく構造を持っています。休眠状態が長引けば「不活動宗教法人」としての扱いが固定化し、承継可能な相手を探す時間的な余裕も少なくなっていきます。反対に、方針を決める前の早い段階であれば、承継、合併、活用事業を伴う運営転換など、複数の選択肢を比較検討する時間を確保できます。
4章で紹介した宿坊・介護事業・複業といった工夫も、多くは後継者が定まり、運営体制が整った後に着手されたものです。まず現状を整理し、どの選択肢が現実的かを確認することが、次の一手を考える出発点になります。判断を先送りにせず、早めに相談することをおすすめします。
8. TSUGUができるご支援
TSUGU(ツグ)では、後継者不在の寺院・神社の承継に関するご相談に加え、承継後に宿坊・介護事業・複業といった活用事業を検討する際のご相談にも対応しています。連携する行政書士・司法書士・税理士とともに、所轄庁との協議を含む一連の手続きを、正規の手続きに沿った形でサポートいたします。
「まだ方針が決まっていない」「まずは現状を整理したい」という段階からのご相談も歓迎しています。ご相談は無料・秘密厳守です。
よくあるご質問
神社やお寺が「倒産した」という報道は、その宗教法人がなくなったという意味ですか。
いいえ。2026年8月、兵庫県川西市の多田神社が神戸地方裁判所へ民事再生法の適用を申請したと報じられましたが、民事再生法は事業を継続しながら裁判所の関与のもとで再建を目指す手続きです。報道によれば、今後も神社としての事業を続けながら財産の処分や問題の解決を目指すとされており、法人が直ちに消滅するわけではありません。
宗教法人の数が減っているというのは本当ですか。
文化庁の統計によれば、2024年12月31日現在の宗教法人数は17万8537法人で、前回調査の17万8921法人から384法人減少しました。また、実質的に活動を休止している「不活動宗教法人」は5019法人(前年比588法人増)となっています。信者数も、自己申告に基づく数値ではありますが、2007年の約2億659万人から2024年には約1億7505万人へと、17年間で約3154万人減少しています。
宿坊やカフェなどの事業を始めると、税務上どのような点に注意が必要ですか。
宗教活動に関わる収入は原則として非課税ですが、宿坊などの宿泊事業や物品販売といった「収益事業」から生じた所得は、法人税の課税対象となります。毎日新聞の報道によれば、高野山で宿坊を営む宗教法人への税務調査で、総額1億円超の申告漏れが確認された例もあります。事業を始める前に区分経理や届出の準備を進めておくことが大切です。個別の取り扱いは税理士等の専門家にご確認ください。
後継者が見つからない場合、いつごろ相談すればよいでしょうか。
早い段階でご相談いただくほど、検討できる選択肢が多く残ります。現状維持・合併・承継・廃止といった選択肢は、状況が進むほど狭まっていく傾向があります。休眠状態が長引くと所轄庁による解散命令の対象になる可能性もあるため、迷っている段階からご相談いただくことをおすすめします。