1. 「手付で単立化」は実際に記録された表示である
文化庁宗務課は、令和7年度不活動宗教法人対策会議(令和8年2月20日)の資料「宗教法人格の不正利用について」で、同庁自身がインターネット上で検索した結果を公表しています。そこに並ぶ実例の一件を、資料はこう記します。
宗教法人の売買案件について、約130件のリストを公開しているウェブサイト。案件中「格安」や「節税に最適」、「名称変更可能」、「手付で単立化」などの評価書きが複数見られ
同資料は、九州地方の案件について「土地、建物を売却します。(単立宗教法人付)」と広告し、約3000坪の土地及び約20坪の建物を6280万円で売却するとしているものも記録しています。確かめたいのは広告の是非ではなく、お金で動かせる部分がどこまでかです。
2. 被包括と単立の違いと、約9割という偏り
宗教法人法は、ある宗教法人と、それを包括する宗教団体(宗派・教派・教団など)との関係を「被包括関係」と呼びます。その有無は、規則(会社の定款にあたるもの)に、代表役員の任命や規則変更について包括団体が権限を持つ旨の定めがあるかで決まります。単立宗教法人は、そうした関係を持たず、自らの規則だけで運営の枠組みが完結している法人です。
2-2. 不活動法人の約9割は被包括 — だから「単立付き」が値札になる
文化庁の調査では、令和6年12月31日現在の全宗教法人178,537法人のうち、約3%にあたる5,019法人が不活動宗教法人とされています。その法人種別の内訳は令和6年末時点で、被包括宗教法人4,494法人(約89.5%)、単立宗教法人521法人(約10.4%)、包括宗教法人4法人(約0.1%)です。
この521法人は「全国の単立宗教法人の総数」ではなく「不活動宗教法人のうち単立であるものの数」です。読み取れるのは、活動を停止した法人の約9割が被包括だという偏りです。承継先を探す法人の多くは被包括で、包括関係のない法人は少ない。だから「単立」が付加価値として語られます。
3. 法律は包括団体の承認を要件としていない
3-1. 第26条第1項後段が定めていること
被包括関係の廃止は、宗教法人法上「規則の変更」として扱われます。規則に書かれた包括団体との関係を削る手続だからです。第26条第1項は規則変更の原則を定めたうえで、後段でこう続けます。
この場合において、宗教法人が当該宗教法人を包括する宗教団体との関係(以下「被包括関係」という。)を廃止しようとするときは、当該関係の廃止に係る規則の変更に関し当該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の定がある場合でも、その権限に関する規則の規定によることを要しないものとする。
3-2. 規則にそう書いてあっても従わなくてよい
規則に「規則の変更には包括団体の承認を要する」との定めがあっても、被包括関係の廃止に係る規則変更については、その定めによる必要がない。したがって承認や同意は法律上の要件ではなく、包括団体が反対していても手続を進められます。ただし第26条第3項は通知を義務づけます。承認は要らないが、通知は要る。承認と通知は別です。
4. 圧縮できない「認証申請の二月前の公告」
4-1. 第26条第2項が定めていること
宗教法人は、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をしようとするときは、第二十七条の規定による認証申請の少くとも二月前に、信者その他の利害関係人に対し、当該規則の変更の案の要旨を示してその旨を公告しなければならない。
4-2. この二月を短縮する規定は条文に存在しない
所轄庁へ認証を申請できるのは、公告から二月が経過した後です。この二月を短縮したり公告を省略する例外規定は置かれていません。財産処分等の公告を定めた第23条第1項には「緊急の必要に基くものであり、又は軽微のものである場合」の但書がありますが、第26条第2項には相当する但書がありません。
公告を証する書類は第27条の添付書類とされ(同条第3号)、第28条第1項第2号により所轄庁は「その変更の手続が第二十六条の規定に従つてなされていること」を審査します。手付金の授受は当事者間の合意の問題であり、この二月を動かしません。
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残りの期間を相談する5. 包括団体ができないこと、廃止しても残ること
5-1. 通知前と通知後二年間の不利益処分は禁止、違反は無効
第26条第3項は、被包括関係を廃止しようとする場合、第26条第2項の公告と同時に、関係を廃止しようとする宗教団体へ通知しなければならないと定めます。この通知を起点に、法律は包括団体の行為を制限します。
第78条第1項
宗教団体は、その包括する宗教法人と当該宗教団体との被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、又はこれを企てたことを理由として、第二十六条第三項(第三十六条において準用する場合を含む。)の規定による通知前に又はその通知後二年間においては、当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の役員又は規則で定めるその他の機関の地位にある者を解任し、これらの者の権限に制限を加え、その他これらの者に対し不利益の取扱をしてはならない。
第78条第2項は「前項の規定に違反してした行為は、無効とする。」と定めます。解任や権限の制限が行われても、第78条第1項に違反すれば効力を持ちません。禁止が「通知前」と「通知後二年間」の両方に及ぶ点も押さえたいところです。
5-2. ただし、廃止前に原因を生じた債務は残る
第78条第3項
宗教法人は、他の宗教団体との被包括関係を廃止した場合においても、その関係の廃止前に原因を生じた当該宗教団体に対する債務の履行を免かれることができない。
賦課金の未納分など、廃止前に原因が生じた債務は単立後も履行しなければなりません。単立化済みの法人でも過去の債務が付いてくる可能性があります。
6. 手続の順序と期間の目安
| 順序 | 手続 | 根拠条文 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 1 | 規則で定める変更のための手続(責任役員会の決議等) | 第26条第1項 | 規則の定めによる |
| 2 | 信者その他の利害関係人に対する公告 | 第26条第2項 | 認証申請の少なくとも二月前 |
| 3 | 包括団体への通知(2と同時に行う) | 第26条第3項 | 公告と同時 |
| 4 | 所轄庁への規則変更の認証申請 | 第27条 | 公告から二月経過後 |
| 5 | 所轄庁の審査・認証に関する決定 | 第28条 | 所轄庁の審査による |
| 6 | 認証書の交付により規則変更の効力が発生 | 第30条 | 交付の時 |
| 7 | 変更の登記 | 第53条 | 変更が生じたときから二週間以内 |
条文で期間が固定されているのは2と7です。1は規則の定めにより、5は所轄庁の判断によります。全体は「二月+規則上の手続の期間+審査期間」として見積もることになり、最短でも二月を下回りません。認証は所轄庁の権限に属するため、期間や結果をお約束することはできません。規則変更と認証の実務は代表役員承継の手続きと規則変更の実務もご参照ください。
この7段階のどこにいるかを確かめる
進捗の段階を確かめる7. 取得をご検討の方が確認したいこと
被包括か単立かは規則と登記で確認できます。「単立化できます」と説明された場合は、次の点を書面で確かめてください。
- ご検討中の法人が、現在、被包括なのか単立なのか(規則の記載で確認する)
- 被包括の場合、規則に包括団体の権限がどう定められているか(承認は要件外ですが、規則所定の変更手続は履行が必要です)
- 第26条第2項の公告が、いつ、どのような方法で行われたか(または行う予定か)
- 第26条第3項の包括団体への通知が、公告と同時に行われているか
- 第27条の認証申請、第30条の認証書の交付、第53条の登記がどこまで済んでいるか
- 包括団体に対し、廃止前に原因を生じた債務が残っていないか(第78条第3項)
3から5は書類で跡がたどれます。口頭ではなく書類でご確認ください。費用は承継費用の目安、譲渡の適法性は「売買」と合法な承継の違い、休眠法人は休眠宗教法人の3つの道で整理しています。
8. TSUGU(ツグ)ができるご支援
TSUGU(ツグ)では、連携する行政書士・司法書士とともに、規則と登記に基づく被包括・単立の確認、規則所定の変更手続と必要書類の整理、公告と通知の段取り、認証申請書類の準備、認証後の登記の手配までお手伝いします。
一方で、認証の可否と審査期間は所轄庁の権限に属するため結果や期間は保証できません。また、単立になることによる税負担の変動を目的としたご相談はお受けしておりません。課税関係は宗教活動と収益事業の区分で決まります。ご相談は無料・秘密厳守です。
よくあるご質問
単立化に包括団体の承認は必要ですか?
要件ではありません。第26条第1項後段は、規則に包括団体が一定の権限を有する旨の定めがあっても、その規定によることを要しないと定めます。ただし第26条第3項により、公告と同時の通知が必要です。
手付金を入れれば単立化は進みますか?
いいえ。第26条第2項は第27条の認証申請の少なくとも二月前の公告を義務づけます。手付金の授受は当事者間の合意の問題で、この二月を動かしません。
公告の二月を短縮・省略できる場合はありますか?
置かれていません。第23条第1項には緊急・軽微の但書がありますが、第26条第2項には相当する但書がありません。公告を証する書類は第27条第3号の添付書類とされ、第28条第1項第2号により所轄庁が審査します。
手続中に包括団体は代表役員を解任できますか?
第78条第1項は、廃止を防ぐ目的または企てたことを理由として、第26条第3項の通知前・通知後二年間に、役員等の解任・権限制限等の不利益な取扱いを禁じます。第78条第2項により違反行為は無効です。
単立になれば未納金はなくなりますか?
いいえ。第78条第3項により、廃止前に原因を生じた債務の履行は免れません。賦課金の未納分などは単立化後も残ります。
単立化は全体でどのくらいかかりますか?
条文で定まるのは第26条第2項の二月前の公告と第53条の二週間以内の登記です。これに規則所定の手続と所轄庁の審査期間が加わり、最短でも二月を下回りません。期間のお約束はできません。