1. 年内に策定される新しいガイドラインと、骨子案の4つの観点
文化庁は令和8年4月から、都道府県、宗教関係者、関係省庁(財務省、法務省、国税庁、警察庁)等からなる「宗教法人格の不正利用対策に係る検討会議」を開催しています。開催要項によれば、実施期間は令和8年4月1日から令和9年3月31日までです。
1-1. 骨子案は4つの観点から整理されている
令和8年7月31日の第2回では、対策の基本的な方向性の骨子案が示されました。骨子案は、所轄庁による実態把握の強化、所轄庁と関係行政機関の連携の在り方、円滑な解散命令請求の実施、国による支援という4つの観点から整理したものだと冒頭に書かれています。
| 観点 | 骨子案が挙げる課題 | 骨子案が示す方向性 |
|---|---|---|
| 所轄庁による実態把握の強化 | 疑いを持つ契機となる事象の整理がない | 事象の整理、情報提供・相談窓口の設置、登記情報の定期共有 |
| 所轄庁と関係行政機関の連携 | 所轄庁に一般的な監督命令権・調査権がない | 警察本部・税務当局等との情報共有、書面による依頼への対応 |
| 円滑な解散命令請求等の実施 | 「目的を著しく逸脱した行為」の基準がない | 外形的な判断基準への当てはめ、報告徴収・質問権の行使 |
| 国による支援 | 所轄庁の人員・予算や普及啓発が不十分 | 必要な経費の確保、事務担当者向けの研修会等 |
1-2. 年内を目途にガイドラインとして策定される
骨子案は、検討会議で取りまとめた内容を「不活動宗教法人対策マニュアル(改訂)(令和5年12月)」の内容と併せて、年内を目途に所轄庁向けの新たなガイドラインとして策定するとしています。申請の時期をある程度選べる状況にある方は、何が書かれるのかを見てから動くという選び方もできます。
出典
本セクションの記述は、文化庁「宗教法人格の不正利用対策に係る検討会議(第2回)配布資料」(令和8年7月31日開催)のうち資料1-1および資料1-2、文化庁「「宗教法人格の不正利用対策に係る検討会議」開催要項」(令和8年4月1日決定、令和8年7月28日改定)、および文化庁の検討会議のページに基づきます。
2. 実態調査の中間報告が示した数と、名義貸しの事例
骨子案と並行して、文化庁は実態把握の調査を進めています。第2回では、宗教法人へのアンケート調査とインターネット調査の中間報告が示されました。
2-1. 18,000法人への調査で、回収率は51.9パーセント
アンケート調査の対象は18,000法人で、全宗教法人の約1割程度に当たります。単立宗教法人はすべてが対象となり、被包括宗教法人については抽出されています。自身が第三者による「売買」や運営支援等のアプローチを受けたとして、277件の事例が報告されたと記されています。
| 項目 | 中間報告の数値 |
|---|---|
| アンケート調査の対象 | 18,000法人(全宗教法人の約1割程度) |
| 回収率 | 51.9パーセント(令和8年7月31日現在) |
| 自身がアプローチを受けたとの報告 | 277件 |
| 他の法人について聞いたとの報告 | 303件 |
| 日本語サイトの売出し件数 | 324件(少なくとも210件に「単立」の記載) |
| 中国語のSNS | 13件(売出し81件のうち27件に「単立」等の記載) |
| 情報提供窓口の受領件数 | 12件(令和8年7月31日時点) |
2-2. 売出しの多くに「単立」の記載があった
インターネット調査は、日本語、英語、中国語のウェブサイトを対象に令和8年4月から7月まで行われました。資料は、単立法人であることが宗教法人格の「売買」においてアピール材料と認識されており、リスクが高いと整理しています。サイト運営者には文化庁から連絡を取り、行政指導を行ったとも記されています。
2-3. 情報提供窓口に寄せられた内容
情報提供窓口が受け付けた件数は、令和8年7月31日時点で12件です。資料に挙げられた内容には、「単立化し、民間企業の納骨堂ビジネスに名義貸しをしている」といったものが含まれます。名義貸しは、法人の運営の実態と、登記や事務所備付け書類の記載とが食い違う状態を生みます。
出典
本セクションの数値は、文化庁「宗教法人格の不正利用対策に係る検討会議(第2回)配布資料」のうち資料3「宗教法人格の不正利用に関する実態把握調査の進捗状況」(令和8年7月31日)に基づきます。窓口の概要は、文化庁「宗教法人の売買に類似した行為に関する情報提供窓口」の掲載内容によります。
3. 骨子案は「単立宗教法人は相対的に不正利用のリスクが高度」と記した
実態把握の強化について、骨子案は4つの課題を挙げています。疑いを持つ契機となる事象の整理が必要であること、単立宗教法人は相対的に不正利用のリスクが高度であること、包括する団体の協力が必要であること、代表役員の変更等の登記事項の適時の把握が重要であることです。
3-1. 単立法人への現地調査が方向性に入っている
方向性には、不活動宗教法人のうち特に単立宗教法人について、必要に応じ所轄庁による計画的・定期的な現地調査や関係者へのヒアリングを実施すると書かれています。議事要旨によれば、委員からは調査対象の定義や指針を国で明確に示してほしいという意見が出ています。
3-2. 単立であることそのものが問題とされているのではない
骨子案が述べているのは、包括団体を通じた確認が働かないために外部から実態が見えにくく、情報の不足や体制の脆弱さがリスクにつながるという点です。被包括関係の廃止そのものの手続と期間は、コラム「「手付で単立化」はできるのか」で条文に沿って整理しています。
出典
本セクションの記述は、文化庁「宗教法人格の不正利用対策の基本的な方向性(骨子案)」(第2回配布資料 資料1-2)、および文化庁「宗教法人格の不正利用対策に係る検討会議(第2回)議事要旨」に基づきます。
4. 宗教法人の規則変更の認証事務で、確認される事項が増える方向にある
読者の手続に最も近いのはここです。骨子案の方向性には、規則変更の認証事務に関する記述が2つ置かれています。いずれも所轄庁に向けた記述ですが、申請する側の準備に直接はね返ります。
4-1. 包括団体を離脱して単立となる規則変更の申請
骨子案は、被包括宗教法人から包括団体を離脱して単立宗教法人となるための規則の変更申請があった際、特に当該法人の目的や事業の変更等がある場合には、包括団体の協力を得ながら法人の同一性・継続性の確認をするなど、所轄庁は離脱に係る事実関係を確認するとしています。宗教法人法第26条第2項は認証申請の少なくとも2か月前の公告を求め、同条第3項は包括団体への通知を義務づけています。もともと時間のかかる手続に、確認の工程が加わる形になります。
4-2. 事務所の移転や吸収合併で所轄庁が変わる場合
骨子案は、事務所の移転又は吸収合併に伴い所轄庁が変更となる規則変更の認証事務においては、必要に応じ、変更後の所轄庁から変更前の所轄庁に連絡し、規則変更に係る事実関係を確認するとしています。都道府県をまたぐ移転や合併では、2つの所轄庁の間で確認が行われる前提で資料をそろえます。
4-3. 登記の情報が所轄庁へ定期的に共有される
骨子案は、文化庁が登記の変更やそれに絡む様々な外形的な情報を一元的に収集し、所轄庁である都道府県に「アラートレポート」として定期的に共有するための取組を推進するとしています。疑いの契機として挙げられているのは「法人の同一性・継続性に疑義があるような代表役員の変更」であり、代表役員が交代したこと自体を問題とする書き方ではありません。手続の流れは、コラム「宗教法人の代表役員承継の手続き」で整理しています。
関連条文
宗教法人法(昭和26年法律第126号)第26条(規則の変更)、第27条(規則の変更の認証の申請)、第28条第1項第2号(認証の審査)、第53条(登記)。解散命令の事由は同法第81条第1項によります。認証事務に関する方向性は、文化庁「宗教法人格の不正利用対策の基本的な方向性(骨子案)」(第2回配布資料)の記1および記3の記述によります。
5. 「外形的な判断基準」はこれから整理される
骨子案には「宗教法人格の不正利用に係る外形的な判断基準」という語が繰り返し現れます。ただし、いずれも文化庁が実施するアンケート調査・事例調査の結果を踏まえて整理するという書き方であり、基準そのものは示されていません。これから整理される予定のものです。
5-1. 既にある「不活動宗教法人の判断に関する基準」とは別のもの
混同しやすいのは、既に存在する「不活動宗教法人の判断に関する基準」です。こちらは令和5年3月31日付けの通知の別紙として示され、所轄庁が不活動と判断する5つの事由を定めています。内容は、コラム「宗教法人の事務所備付け書類と不活動の判断」で整理しています。2つの基準を同じものとして読むと、現に適用されている基準を見誤ります。
5-2. 委員からは表現への注意も出ている
議事要旨によれば、委員からは、外形的な判断基準という表現は宗教活動の外見から偽装を判定するようにも読めるため、表現ぶりには工夫が必要かもしれないという意見が出ています。基準の内容そのものが、まだ議論の過程にあります。
注意
「新しい判断基準ができたので今のうちに手続を済ませたほうがよい」といった説明には注意が必要です。外形的な判断基準は整理される予定のものであり、骨子案も今後更に検討を進めると記しています。急がせる説明の根拠が、どの資料のどの記述なのかを必ず確かめてください。
6. 国は「宗教法人の業務承継についての支援策が不足」を課題に挙げた
骨子案には、承継を考えている方にとって前向きな記述もあります。課題の欄に「宗教法人の業務承継についての支援策が不足」と書かれ、方向性として、法人の同一性・継続性を維持したうえで業務を承継する場合の手続や留意点等について文化庁において整理すると書かれています。全国的に業務承継が難しい状況だという課題も、別の項に挙げられています。
6-1. 適法な承継と不正利用は、行政の側で区別されている
文化庁が問題としているのは、宗教活動を目的としない第三者が金銭等の利益を与えることにより代表役員の地位等を得る行為です。開催要項はこれを「宗教法人の売買に類似した行為」と呼んでいます。裏を返せば、宗教活動を継続する意思をもって法人の同一性・継続性を維持する承継は、同じ枠に置かれていません。両者の違いは、コラム「宗教法人の「売買」はできる?」で条文に沿って整理しています。
6-2. 令和8年に設けられた2つの窓口
文化庁は令和8年度の「宗教法人格不正利用実態把握・普及啓発事業」として、2つの窓口を設けました。情報提供窓口は令和8年12月(予定)まで、相談窓口は令和8年7月から10月までの間、ホームページにフォームを開設するとされています。相談窓口では、文化庁が委託した株式会社産業経済新聞社と契約した弁護士等が対応し、土日祝日等を除き原則10日以内に文化庁よりメールで回答するとされています。具体的な権利行使やそのための各種調査・証拠保全は、相談の対象外とされています。
ワンポイント
2つの窓口は、いずれも期間を限って開設されたものです。受付の期間と対象は、文化庁の「宗教法人の売買に類似した行為に関する相談窓口」および「宗教法人格の不正利用について」のページでご確認ください。
7. 宗教法人の認証申請を控えている方が、いま確かめられること
骨子案の方向性を裏返すと、申請の前に確かめておける点が見えてきます。
- 目的と事業の記載: 規則の変更で目的や事業を変える予定があるかを確認します
- 包括団体への連絡: 宗教法人法第26条第3項の通知を含め、連絡の経過が記録に残っているかを確認します
- 代表役員の選任経過: 責任役員会の議事に関する書類など、手続を示す記録がそろっているかを確認します
- 事務所備付け書類: 直近の会計年度の書類を、終了後4月以内に提出済みかを確認します
- 移転や合併で所轄庁が変わる場合は、変更前と変更後の双方に照会し、求められる資料と期間を早めに把握します
書類の提出や認証申請は、法人が現に活動していることを所轄庁に示す機会でもあります。早めに動くほど、選べる道は多く残ります。
8. TSUGU(ツグ)ができるご支援
TSUGU(ツグ)は、後継者にお悩みの宗教法人と、健全な運営を志す承継希望者との橋渡しを行う相談窓口です。法人の同一性・継続性を維持した形での承継を前提に、規則変更や代表役員の選任といった手続の段取りからご相談に対応しています。
ご相談では、まず現状がどの段階にあるのかを一緒に整理します。そろえる資料と見込む期間は、離脱や移転を伴うのかによって変わります。
よくあるご質問
年内に策定される所轄庁向けのガイドラインでは、何が変わるのですか?
骨子案は、実態把握の強化、関係行政機関との連携、円滑な解散命令請求の実施、国による支援の4つの観点から方向性を整理しています。この内容は年内を目途に所轄庁向けの新たなガイドラインとして策定されるとされており、骨子案自身は今後更に検討を進めると記しています。
被包括関係を離脱して単立になる規則変更の申請は、通りにくくなるのですか?
骨子案は、単立宗教法人となるための規則の変更申請があった際、特に目的や事業の変更等がある場合には、包括団体の協力を得ながら法人の同一性・継続性の確認をするとしています。離脱そのものを認めない趣旨は書かれていません。説明に要する期間を見込んでおくことが現実的です。
宗教法人の認証申請は、これまでより慎重に審査されるのですか?
骨子案は、事務所の移転又は吸収合併に伴い所轄庁が変更となる認証事務で、変更後の所轄庁から変更前の所轄庁に連絡し事実関係を確認するとしています。疑いの契機とされているのは「法人の同一性・継続性に疑義があるような代表役員の変更」であり、正当な手続を経た申請を不利に扱う趣旨ではありません。
「宗教法人格の不正利用に係る外形的な判断基準」は、すでに公表されているのですか?
骨子案にこの語は繰り返し現れますが、いずれも文化庁の調査結果を踏まえて整理するという書き方であり、基準そのものは示されていません。令和5年3月31日付けの通知の別紙である「不活動宗教法人の判断に関する基準」とは別のものです。
文化庁の相談窓口は、いつまで利用できるのですか?
文化庁は令和8年度の事業として、令和8年7月から10月までの間、「宗教法人の売買に類似した行為に関する相談窓口」を開設するとしています。情報提供窓口は令和8年12月(予定)までの受付です。相談には、委託先と契約した弁護士等が対応すると記されています。